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Return to #35 - "Opinions on Matsui"

時代を読む  松井の活躍に思うこと

中日新聞本社客員 米コロンビア大学教授 ジェラルド・カーティス

今ニューヨークで日本について世論調査を行い、有名な日本人の名前を挙げてくれ、と質問すれば、答えは決まっている。ジュンイチロウ・コイズミではない。その名前はヤンキースの強打者ヒデキ・マツイであろう。たとえ、最終試合が無安打に終わり、ワールドシリーズに敗れ、マーリンズが優勝したにせよ、松井の大リーグ1年目はすばらしい。ワールドシリーズ第三戦で、松井は八回に放ち、ヤンキースを救い、レギュラーシーズンでも多くの試合で輝いた。

今年のワールドシリーズは面白くて、久しぶりに野球に夢中になった。松井のヤンキースのユニホーム姿や今シーズンの振る舞いは、野球に限らず、日本社会や、日本人と米国人がどのように影響し合うかについて、重要なことを示している。最近の日本についての情報がほとんど悲観的であり、国際情勢が荒涼としている時、松井が提供してくれる明るい話題を書くのは実に楽しい。

どの時代よりも、今ほど、日本人は行動様式でアメリカ的になるべきだという話を聞くことはない。だが、アメリカ的になることが何を意味するか、私にはよくわからない。どうもアメリカ的イコール個人主義のようで、個人主義というのは自分の言いたいことを言い、やりたいことをやり、他の人のことを考えず、自分の利益ばかり追求すると思われているようだ。時々、日本語で話している時は丁寧で礼儀正しいが、英語で話すとなると、このような「個人主義」を出そうとする人がいる。それは個人主義を尊重する米国人とうまくやるには、「がさつ」でなければならないと言っているかのようだ。米国人としてはすごく違和感がある。

そこで米国での松井の態度は実に立派だ。東京で活躍していた時と同じように、ニューヨークでも必ず礼儀正しく、謙虚で、チームのためにプレーしている。米国人の多くは松井のこの静かな威厳を評価している。自分に自信を持って、仕事ができるなら偉ぶる必要はないというのは、元来、米国人の価値観に合致する。傲慢な人も多いが「言葉より行動で示すべきだ」という格言があるように、成功者であることを見せびらかさず、チームプレーの大切さも理解している米国人も多い。

ニューヨークでの松井の人気を考えると、日米の文化の差異は大きいにせよ、二つの社会を引き離すより、引き寄せる基本的な価値観がある、ということをわれわれに思い出させる。

数ヶ月前、日本からニューヨークに戻る直前、財務省で働いている友人と食事した。彼は成功者としての経歴を持ち、今も重要な職にある。ところが食事中、突然悲しそうな顔を上げ、「もう少し若かったら、この職を辞め、別のことに挑戦したい。一度でいいから松井のように大リーグでプレーしてみたい」と言った。しばしば、私はこの言葉について思い巡らせる。「松井のようになりたい」という若い日本人に会うことが最近増えている。「松井のようになりた」が意味しているのは、自分の能力の範囲で、失敗のリスクを背負いながらも、大成功するチャンスをつかみたいということだ。

日本でも米国でも、大多数の人たちは松井のようになりたいと望んでいないのは真実だ。多くの人は、安定した仕事と円満な家庭環境があって、平凡な生活ができれば、それで十分に満足する。戦後日本に作られた経済システムと社会構造がそのようなジャパニーズ・ドリームを見事に実現した。しかし、日本の組織構造は、それ以上の野望を持つ「松井のように」挑戦したい人たちを、容易に受け入れる体制ではない。これはバランスの問題で、戦後に作られたシステムを放棄することはないと思う。ただ、松井のように「ホームラン打者」になる可能性を秘めた人たちはビジネスマンにも、政治家や役人、その他の分野にも多くいるはずだ。

日本の社会構造がこうしたホームラン打者のための「余地」をもっと空けるように変わっていけば、日本の将来はそれだけ、もっと明るくなるだろう。

中日新聞11月2日(日)朝刊より

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